ZEHが不可欠な理由とは【電気料金は本格的な上昇局面へ】
ZEHというキーワードを目にしたことがある方が増えてきたと思います。
ZEHとはネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略で、通称「ゼッチ」と呼ばれています。
住宅の高断熱化と高効率整備によって、快適な室内環境と大幅な省エネルギー化を同時に実現した上で、太陽光発電等によってエネルギーを創ることで、年間に消費するエネルギー量を正味で概ねゼロ以下となる住宅のことを言います。
ZEHは日本の省エネ目標を達成するためには欠かせない要素の一つと言われております。
2016年のパリ協定批准による世界的な環境意識の高まりや、日本でも電力小売り自由化が始まったことで、
エネルギーのあり方は、今、新たな局面を迎えています。
炭素税、原発廃炉費用、再生可能エネルギー賦課金という3つの要素により、電気代は上昇してゆくでしょう。
ZEH(ゼッチ)という取り組みに注目が集まる一方、ZEHやゼロ・エネルギーハウスという言葉だけが独り歩きしている感は否めず、住宅業界の人間ですら、正しく説明できる人は少ないほどです。
近い将来、大幅な電気代上昇による「無知の被害者」にならないために、本物の家づくりの知識をつけましょう。
※WELLNESTHOME創業者の早田がZEHについて解説している動画はこちら
contents
世界は環境世紀へ。ゼロ炭素社会の幕開け
今、エネルギーの世界は大きな転換点を迎えています。人類は18世紀の産業革命で、石炭による莫大なエネルギーを産み出し歴史を大きく動かしました。19世紀には石油、20世紀には原子力などのさらに大規模なエネルギーを手に入れ社会を発展させた反面、環境問題が深刻化しました。そして21世紀は脱炭素社会、再生可能エネルギーの時代が到来しています。
2015年パリ協定が世界190カ国で採択され、たった9ヶ月後の2016年に批准されました。1997年に採択された京都議定書は2006年に批准されるまでに9年の歳月を費やしたことを考えると異例のスピードです。これは米中が批准したことが大きな理由ですが、彼らが、限りある石油の争いを続けるよりも、自分たちで再生可能エネルギーを作り出した方が良いと考えたからです。
パリ協定で21世紀後半に温室効果ガス排出を実質ゼロにする、つまりゼロ炭素社会を目指すことの決定を受け、世界では炭素価格の上昇が余儀なくされます。カーボンプライシングと呼ばれる、炭素税を代表とする二酸化炭素等の温室効果ガスの排出量に応じた対価を支払う社会制度が導入され、英国紙ロイターによると、2030年には、CO2の排出削減費用は最大100ドルまで上がると言われています。
“カーボン・プライシング・リーダーシップ連合(以下CPLC)が29日発表したリポートによると、各国がパリ協定で誓約した目標を達成すると想定した場合、二酸化炭素の排出削減にかかる費用が2020年に1トン当たり40─80ドル、2030年に同50─100ドルに急上昇する見通しだ。”(ロイター2017/5/29より引用)
長い間、世界の石油の利権を握ってきたメジャーでも、再生可能エネルギーへのシフトを示した将来のエネルギーミックスを公開しています。石油、石炭、ガスなどの化石燃料の比率は激減し、再生可能エネルギーの比率が大きく高まっています。「実質ゼロ炭素社会の妥当な電源構成」として、太陽光発電(0.5%→30%)や風力発電(0.5%→12%)が大きく成長し、石油(31%→7%)や石炭(29%→9%)などの化石燃料の割合が大きく低下しています。石油メジャーの公式ページですら、主な電源が再生可能エネルギーに移行してゆくことを示しているのです。
実質ゼロ炭素社会の妥当な電源構成
(『A BETTER LIFE WITH A HEALTHY PLANET』2016年5月発表のデータ)より
車もゼロ炭素社会に向かっていきます。フランス政府は7月6日に、続いてイギリス政府でも7月26日に、2040年にガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する方針を発表し、急速に電気自動車への移行が進んでいきそうです。最も急速なのは大気汚染問題への対応から規制が進む中国です。2016年の、EVと、電気のみでも走れるプラグインハイブリッドの合計台数が前年比倍増し、世界シェアもトップに躍り出ました。世界全体では、EVなどの累計出荷台数が2016年には200万台を越え、2020年には2000万台に達するという調査もあります。
(フランス、EV社会へ大転換 ガソリン車禁止の余波:日経新聞)
(焦点:電気自動車の勝利か、英国が脱ディーゼル・ガソリン宣言:ロイター)
(EV、世界で200万台販売 中国がシェアトップに:日経新聞)
脱炭素社会の流れに逆らうのは、投資の面から見ても、企業の財務にとって得策ではありません。世界の大規模な資産運用会社でも、CO2を多く排出する会社よりも環境意識の高い会社を支持するようになってきています。当然、業績が上がると読んでいる会社に投資をしている結果です。脱炭素の流れに乗れない会社には未来がないと思われているのでしょう。(『環境に向かうマネー 企業一段の情報開示も』日経新聞)
そんな流れに逆らい、パリ協定離脱の見通しを発表したトランプ大統領に対しては、石油メジャーですら冷淡な姿勢を見せています。
“温暖化ガス排出のおおもとである石油・天然ガスを開発するメジャー(国際石油資本)の間では「パリ協定支持」が支配的だ。トランプ氏の姿勢には冷ややかな視線が目立つ。(日本経済新聞2017/6/1)”引用
このように、世界は脱炭素社会へすでに動き始めました。日本ではまだ炭素の排出にかかっている税は先進諸国に比べて低水準ですが、これから上がるでしょう。次章で具体的な計算をして金額の予測を解説します。
日本におけるカーボンプライシングとは?
日本の電気代はこれから上昇局面に入っていくと私は予測しています。その理由は、これからお伝えする「3つのコスト」を、国民全員で負担してゆくことが既に決まっているからです。3つのコストとは、さきほど述べたカーボンプライシング、そして原発廃炉費用、再生可能エネルギー賦課金の3つです。これらがどれだけの負担になるのでしょうか。まずはカーボンプライシングから見ていきましょう。
カーボンプライシングは、CO2を排出することに対する対価です。つまり、CO2をたくさん排出する企業からはたくさん税金をとり、そのお金でCO2を削減している企業を応援し、業績が上がるようにしようという社会制度です。日本では車の「エコカー減税」をイメージしていただければわかりやすいと思います。大排気量の車やディーゼル車には課税を強化し、プリウスなどのエコカーの税を減税します。その結果、プリウスは安くなっていき、燃費まで考えればより安いということがみんな分かってきたので、プリウスの業績が伸びたということです。この概念が住宅にも適用されてくるようになります。
カーボンプライシングは、日本ではまだ個人には課税されておらず、企業が石油石炭税や地球温暖化対策税として支払っています。
各国の炭素税(二酸化炭素排出1t当たりの価格を1ドル110円換算でWELLNEST HOME作成)
World Bank Group「State and Trends of Carbon Pricing 2015」
日本では、温暖化対策税(2012年導入)として1tあたり289円、石油石炭税として、原油・石油製品1klあたり2040円、ガス状炭化水素1tあたり1080円、石炭1tあたり700円が課税されていますが、世界の先進国と比較すると課税額がまだまだ少なく、前章で見たように、CPLCでは2030年には1トン当たり50〜100ドル(5,500〜11,000円)まで上昇すると見込まれています。
(『カーボンプライシングについて』環境省(2017年1月)より)
CPLCの見込み通りに1トンあたり100ドル(11,000円とする)まで課税された場合、一般家庭ではどれだけの負担になるのでしょうか。
「家庭からの二酸化炭素排出量(2015年度)」(JCCCA全国地球温暖化防止活動推進センターより)によると、2015年度に一般家庭の電気、ガス、ガソリン、軽油、ゴミ、水道などから、4,920kgの二酸化炭素が排出されていますので、2030年には1世帯当たり年間54,120円の税負担になる恐れがあります。日本の2015年の世帯人数は2.49人ですので、1人あたり21,734円の負担になります。
(『平成28年国民生活基礎調査の概況』厚生労働省より)
都市部(大阪府:399万世帯)や寒冷地(北海道:244万世帯)の実際の使用例で見ていきましょう。
<大阪府>
電気:大阪府の場合、関西電力の1世帯当たり電力使用量が5,429kWh/年で、関西電力のCO2排出係数が496g/kWhなので、排出量は2.69トン。
都市ガス:世帯あたり年間使用量が約298㎥で、都市ガス1㎥当たりの二酸化炭素排出量が2290gなので、排出量は0.68トン。
以上を合計すると、二酸化炭素排出量が3.37トン。1トンあたり11,000円の課税がされるとすると、年間37,070円/世帯の負担です。大阪府の平成28年の1世帯あたり人数は2.21人ですので、一人あたり16,773円の負担額になります。
(大阪府の推計人口速報より)
<北海道>
電気:北海道の1世帯当たり電力使用量が約4,985kWh/年で、北海道電力のCO2排出係数676g/kWhなので、排出量は3.37トン。
灯油:世帯あたり年間使用量が約1,412ℓで、灯油1ℓ当たりの二酸化炭素排出量が2490gなので、排出量は3.52トン。
以上を合計すると、二酸化炭素排出量が6.89トン。1トンあたり11,000円の課税がされるとすると、年間75,790円/世帯 の負担です。北海道の平成29年6月の1世帯あたり人数は2.2人ですので、一人あたり34,450円の負担額になります。
(北海道の推計人口速報より)
大阪府と北海道の電気使用量はこちらを参照)
北海道の灯油使用量はこちらを参照
大阪府の都市ガス使用量はこちらを参照
都市ガス、灯油の二酸化炭素排出係数はこちらを参照
電力の二酸化炭素排出係数は『電気代温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度』こちらを参照
一人当たりの年間負担額は地域によって異なりますが、2万円前後から、高い地域では3万円以上になる可能性もあります。決して安い税額ではありませんよね。
原発廃炉費用の国民負担の試算額増加と、支払いの長期化
電気料金を上げる2つ目のコストは原発廃炉費用です。2011年の福島第一原発の廃炉費用の国民負担額の試算額は年々上がり続けています。
発表年 | 試算額 |
---|---|
2011年12月 | 原発周辺の住民などに対する賠償金や、原子炉の冷却費用などを基に5兆8000億円。 |
2014年 | 11兆1600億円(※1) |
2016年 | 21兆円(福島第一原発)(※2) |
(※1) NHKニュースより政府、東京電力のデータより、NHK調べ。
(※2) 朝日新聞デジタルより。経産省の試算結果。以上のデータを元にWELLNEST HOME作成
さらに、2017年には日経新聞から国内原発処理費用が40兆円に上ることが載っています。(福島第一21.5、他国内原発処理に18.5兆円)2017.2.26日経新聞より(日経が、政府の推計を集計)
しかし海外の原子力専門家の意見では、福島第一原発のみで60兆円という厳しい意見が出ています。2016年、アーニー・ガンダーセン氏インタビュー。5000億ドル(60兆円)100年。(福島第一のみ)(Business Newslineより引用)
仮に60兆円だった場合、国民負担はいくらになるのでしょうか。政府の人口統計によると、出生中位推計の結果に基づけば2053年には日本の人口が1億人を割ります。(厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所より)
単純に60兆円を1億人で割ると、一人当たり60万円で、4人家族ならで240万円の負担が、電気料金に上乗せされることになります。仮にこれを60年間で支払うとすると、(金利分もかかってくると思いますが、ここでは省略したとしても、)一家族当たり年間4万円の負担になります。
しかし、私は福島第二原発まで含めると、60兆円でも済まないのでは、と危惧しています。100兆円くらいないと、関連する全ての費用をまかなえないのではないでしょうか?その場合は、80〜100年くらい支払い期間が続くと思います。
このように、原子力発電は、廃炉費用と事故のリスクを加味すると、非常にコストのかかる発電方法です。だから世界では、原発でもない、化石燃料でもない、新しいクリーンなエネルギーである再生可能エネルギーに向かっているのです。
再生可能エネルギー賦課金はさらに上昇する
日本でも再生可能エネルギーの普及は拡大し、太陽光発電の導入は世界第3位で、2位のドイツにも迫る勢いです。
エネルギー白書2017より
しかし、それでも現状の日本のエネルギー自給率はたったの6%で、94%は化石燃料に頼っています。
『エネルギー問題と原子力』関西電力より
政府は2015年6月1日に開いた総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)の小委員会で、2030年時点の日本の望ましい電源構成として、再生可能エネルギーの比率を22〜24%としています。(新エネルギー新聞2015/7/30より)そのため、再生可能エネルギーの普及促進が必要なのですが、そのためには「再生可能エネルギー賦課金」という3つ目のコストがかかってきます。
再生可能エネルギー普及の先駆者として、ドイツが拡大させてくれたことで発電コストは大きく下落しました。ドイツでは2000年代から、再生可能エネルギーのFIT(固定価格買取)制度のため、国民の電気料金に賦課金を課税することで再生可能エネルギーを普及してきたのです。
2006年頃には1kWあたり約 60万円(内20-25万は太陽光パネル代)でしたが、どんどん普及して、コストダウンしました。1kwあたり約5万円になったところで、中国が一気に加速し、現在では太陽光の普及で世界トップになっています。
ドイツでは国民に負担をかけて普及した代償として、電気代は大きく上昇しました。家庭用の電気代が2000年には14円/kWhだった(日本では23円/kWh)のが、2017年には36円台まで上がっています。そのうち再生可能エネルギー買い取り費用は8.6円です。
ドイツ・エネルギー・水道事業連盟(BDEW)、2017年2月16日付け「2017年2月電力料金分析-家庭用および産業用」より円換算しWELLNEST HOMEで作成
日本でも既に再生可能エネルギー賦課金として電気代使用量に応じて2.65円/kWhほど賦課されています。皆さんの家の電気料金明細にも、必ず「再エネ発電賦課金」として徴収されているはずです。開始した2012年には0.03円/kWhだったのが、2017年には2.64円/kWhになり、5年間で88倍になっています。これが一般家庭では4〜5円/kWhまで上がるのではないかと考えられます。
(『太陽光発電・風雨力発電の大量導入による固定価格買取制度(FIT)の賦課金見通し』電力中央研究所)を参考にWELLNEST HOMEで作成
上記のデータを元に、年間1世帯当たり年間5500kwh使っているとすると、一月で458kwh。約4.7円/kwhの負担額なので、一月あたり2152円の負担額になります。
電気代上昇局面での電力自由化について
ここで、2〜4章で試算したカーボンプライシング、原発廃炉費用、再生可能エネルギー賦課金の3つのコストを合計してみましょう。ここでは4人1家族で、一般的な一軒家(年間電力使用量10,000kWh)に住んでいる家庭の場合で考えてみます。
カーボンプライシングで1人当たり21,734円(北海道では34,450円)でしたので、4人家族だと、単純計算でおよそ86,936円です。
原発廃炉費用の試算では、1人あたり60万円を60年間で支払うと仮定して年間10,000円。4人家族なら40,000円です。①で出した金額と合計すると、年間126,936円で、電力使用量10,000kWhで割ると、12.7円/kWhの値上がりです。
再生可能エネルギー賦課金の試算では、4.7円/kWhの増額です。②で出した金額と合計すると、17.4円/kWhの値上がりです。
日本では、震災前の2010年頃が約21円/kWhなので、この試算では2030年には40円/kWh近くまで上がるということになります。これでドイツの電気料金と、ほぼ変わらなくなります。2030年頃には、この事例の年間10,000kWh使う家なら、年間174,000円、電気代が上がることになります。
このように、電気代は上昇局面にあるということがご理解いただけたかと思います。しかし2016年4月から電力小売自由化が始まったことで、競争力が高まり電気代は安くなると思っているお客様もいるでしょう。確かに、電力会社の選び方によっては安くできる可能性はあります。しかし、実際にスイッチング(新電力への契約先の切り替え)をしている人は、2017年1月の時点で3.9%(電力小売全面自由化の進捗状況(経済産業省)より)しかおらず、少しの電力削減のために契約手続きの手間をかけて変更をしようと思う人はあまりいないことを示しています。「どの電力会社を選ぶか?」という問題はミクロの問題であり、マクロで見た日本全体の電気代が上がっていく可能性が非常に高いので、結果として、長期的に見ると電気代は上がっていくのです。
今年に入ってからも、10大電力会社で一斉に値上げがされました。これまでの電気事業法では、地域の大手電力会社は値上げをする際は関係閣僚会議等を経由して、経産省の認可が必要でしたが、電力小売り自由化で認可が不要になり自由に料金設定できるようになったからです。見方によっては、電力自由化したことによって、「再エネの賦課金、燃料費の上昇などによる一律の値上げ」がいつでもすることができる環境が出来上がったとも言えます。
先ほどの試算通りに、年間の電気代が20円/kWh上がるとなると、月々の電気使用量に比例して賦課されるため、電気使用量が多い家ほど、負担額もより大きくなります。逆に使用する電気が少なければ、負担額も最小限に抑えることができるので、電気代がかかる家と、そうでない省エネの家の差はどんどん広がっていくことが分かります。
だから今、ZEHの普及が急速に進められており、これからの時代には不可欠になってくるのです。しかし、ここでもう一つの問題があります。一言でZEHと言っても、日本のZEHの定義では、10年後に数十万円も電気代がかかってしまうような家でも、「ZEH」と言えます。「数字の計算上では実質ZEHと呼べる」と言ったところでしょうか?私はこのような住宅を通称「メカメカZEH」と呼んでいます。
この記事はZEHの必要性に関して書いた記事ですので、そうでない本物の省エネ性能を高めたZEHとメカメカZEHの違いについては、また別の記事でお伝えしたいと思います。