ドイツ フライブルクの旅③
フライブルクの森林業について学ぶ(前編)
前回のドイツ フライブルクの旅②エネルギーを自給自足 市役所と団地のハイクオリティな設備とはでは、フライブルク市役所と、郊外にある団地「ヴァインガルテン」をご紹介しました。
第3弾では、フライブルクの森を訪れた一行が、森を視察しながら学んだ、ドイツの森林業のありかたや、森との付き合い方についてご紹介していきます。
contents
絵画のように美しいフライブルクの森
今回、訪れたのは、フライブルク市が所有する森です。たえず鳥がさえずり、まるで絵画のような、美しい緑の世界が広がっています。森のすぐそばには民家があり、散歩やランニングに地元の人たちも訪れる場所です。
ドイツの森のプロフェッショナルから学ぶ
ウェルネストホームのメンバーは、この森を視察しながら、森林・環境コンサルタントの池田憲昭さん(写真右)による視察セミナーを受講しました。
池田さんは、2002年にフライブルク大学森林環境学部を修了し、ドイツ在住は25年以上。森林・環境コンサルタントのほかにも、日独通訳・翻訳家、文筆家として幅広く活動されています。
ウェルネストホーム代表の早田は、2007年から池田さんの視察セミナーを受講していますが、コロナ禍により今回は3年ぶりの再会となりました。
ここからは、視察セミナーの一部をご紹介していきます。
林業の課題とドイツの森の現状
一斉単純林の課題
ドイツの森を説明する前に、先ずは畑作的な林業について、説明します。
畑作的な林業では、一斉に同じ樹種を育て、人間に都合のよい収穫時期が来たら、また一気に収穫(伐採)します。すると、どうなると思いますか?
木が生えてきません。
草が生えることにより、木が生えてこれないのです。だから年に3回も4回も下刈り※1をし、さらにそれを5~10年続けなければならないのです。大変な作業ですね。
こうした一斉単純林※2は、生態系的にも乏しく、多様性もなく、虫のリスクや、天候の災害に遭いやすいといったリスクもあります。
※1植栽した造林木の生育の支障となる雑草や雑木を刈り払うこと
※2同齢の単一樹種の森林。
多様な樹種が育つドイツの森
こうした一斉単純林を多様な樹種が育つ森にするために、わたしたちには何ができるのでしょうか。
空気も、土も、水の量も、私たち人間にはコントロールすることができません。
私たちが森のためにできること、それは「間伐をして光環境を変えること」です。
間伐をしていけば、光がたくさん当たるところもあれば、暗いところもある。光の多様性が生まれます。
一斉単純林の場合、全てが同じ光環境となるため、同じような光の適性を持った植物が優先的に生えてきます。
けれど、多様な光環境を作っておけば、様々な樹種が生えてくる可能性があります。こうして間伐を20年、30年続けていくと、多様な樹種が育つようになります。
このフライブルクの森では、間伐が若木の手入れにもなり、同時に、天然更新※3の促進にもなっています。下刈りの必要がないので、コストも抑えられます。
※3 森林の伐採後、植栽を行わず前生稚樹や自然に落下した種子等から樹木を定着させること。天然力を活用して森林の再生(更新)を図る方法。
視察セミナー後は、池田さんとウェルネストホーム代表の早田が森との共存について対談しました。
視察を終えて 池田さん×早田対談
早田 2007年からドイツに来るたびに必ず1回は池田さんの視察セミナーを受けて、日本にも森林業のすばらしさを伝えてきましたが、日本の森林が変わるのは難しいですね。
池田 森林が変わるのは自然のプロセスですが、一番難しいのは、人間が変わることじゃないすか。日本で林業と言われているものは、森を経済的な目的のためだけに扱う、木材培養工場だと思っています。植えて、育てて、切るという直線型の経済活動です。
森には多面的な機能があります。生態系としての機能、水をつくっている重要な場所でもあるし、木材を生産する機能、レクリエーションをする場でもありますよね。
森の扱い方というのは、木材を生産するだけを考えるのではなく、これら機能を踏まえてバランスを取りながら、木材も生産していくという、経済的な利用をしながらも森林の多面的な機能をバランスよく考えていくという森の管理の仕方、森づくりですね。
早田 人間が少し手を入れて光を取り込んであげれば、様々な樹種が天然更新していきます。単にひとつの樹種を植えて大きくするのではなくて、森をマネジメントしていく。だけどそのマネジメントは人間のためではなくて、生物多様性であったり、鳥のためだったり、昆虫のためだったり、全ての動植物が共存できるような姿をつくろうとしていますよね。
池田 森林業は、木材や原木を売って収入を得ることが大きな目的ではありますが、同時に、生物の生息空間を維持することが大事です。森が持つ水を貯える機能や、快適な気候をつくっていくといった国土保全機能も維持しながら森を管理する、というときに、人間はどういう手入れができるでしょうか。森は人間が何もしなくても勝手に成立します。でも人間は森を必要としています。人間が手を入れながら、うまく自然を更新するには、どういう風に、どういうバランス関係で森と付き合い、そして森の恵みを享受しながら、共存していくかと。
早田 お互い邪魔せずにいい関係でいるというか。
池田 いい関係で森をつくって、利用していけるかということです。
まとめ
いかがでしたか?
今回は、ドイツの森林業や森との付き合い方についてご紹介しました。
今回の記事の内容はこちらの動画からもご覧いただけます。
次回も引き続き、早田と池田さんの対談の内容をお届けします。
ドイツの森の林道にフォーカスして、これからの時代に必要な環境・住まいへの考え方をご紹介していきます。ぜひ、ご覧ください。