2020年省エネ基準(断熱基準)義務化が見送り!?(その2)
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COP24採択、気候変動対策は最終局面に。
世界各国で異常気象による自然災害が年々増加しており、私たちの生活を脅かし始めています。この最大の要因と考えられているのが地球温暖化による気候変動であり、私たちの住む日本でも、今年の夏に代表される災害級の猛暑日の増加、毎年千年に一度の大雨が降るという異常さに代表される土砂崩れを誘発する集中豪雨や大雪の増加、台風の大型化や本州直撃頻度の増加、他にも森林や農作物などの生物の生態系の急変などなど、その悪影響は深刻かつ多岐にわたっています。
そこで、2018年12月2~15日(本来14日までのはずが一日延長)までポーランドCOP24(第24回国連気候変動枠組み条約締約国会議、以下COP24)にて、気候変動の主要因とされる、世界の温室効果ガス排出量(二酸化炭素等)の削減に向けた「パリ協定実施ルール」の作成について詰めの協議が行われ、全会一致で採択されました。世界は協力して地球温暖化に伴る気候変動へ対策を実行レベルで本格化させることになりました。
国交省が独断で国際的な約束を秒で破る?(縦割り行政の弊害か?)
ところが、COP24にて環境大臣が代表例として示した住宅の「脱炭素のためのESG投資とは真逆の政策立案」が、国土交通省から提示されたことに、驚きを禁じえません。
というのも、2018年12月3日に国土交通省にて開催された社会資本整備審議会 建築分科会 建築環境部会において、平成28年5月13日に閣議決定されているパリ協定を踏まえた地球温暖化対策計画により、2020年から義務化が予定されていた「住宅の断熱性能の最低基準の義務化」を白紙化する案が提示了承されたからです。
今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について(第二次報告案)
http://www.mlit.go.jp/common/001263809.pdf
要約はこちら
http://www.mlit.go.jp/common/001263808.pdf
オブラートに包んで回りくどく書いてますが、ザックリ言えば予定していた「住宅の省エネ基準義務化しない」ということが書いてあります。
パリ協定を踏まえて提示された現在の削減目標では1.5℃未満に抑えられないばかりか、最低目標の2未満にも遠く及ばず、3℃以上温暖化してしまうというのが「IPCC GlobalWarmingof1.5℃」による最新情報です。つまり、最低でも以前に決めた削減目標以上に積み増すことが必須となっている状態です。にもかかわらず、以前に決めた内容を後退させるような政策を打ち出すという、気候変動対策につて認知があれば、絶対にありない政策立案がなされています。
その理由が、ザックリ言えば、
- 「建築主に効率性の低い投資を強いることになる」
- 「適合率が低いままで義務化すると市場の混乱を引き起こす(消費増税と重なるし)」
- 「省エネ基準などに習熟していない事業者が相当程度いる」
- 「申請者、審査者ともに必要な体制が整わない」
- 「住まい方でエネルギー消費量は変わるから」
- 「デザインに制限かかかると一部のデザイン建築家がやりにくい」
だそうです。これって、ぶっちゃけ①⑤以外は作り手側(行政側)の都合(怠慢)ですよね・・・。①だって、国土交通省の試算例が特異で市場価格では費用対効果は逆にあうのですが・・・(この件後ほどやります)。
そもそも、住宅の省エネ基準とは?
日本の住宅の省エネ基準は、昭和50年代のオイルショックを受け、1979年から施行された「エネルギーの使用の合理化に関する法律(以下:省エネ法)」内にて1980年に住宅で推奨される省エネ判断基準は「旧省エネ基準(昭和55年基準)」として初めて制定されました。その後省エネ法の改正に伴って1992年(は「新省エネ基準(平成4年基準)」に強化され、1999年の改正は「次世代省エネ基準(平成11年基準)」と強化されてきました。
その後、東日本大震災後のエネルギー不足から、日本のエネルギー自給率が低いリスクが顕在化され、2013年に省エネ法の改正によって新たに平成25年基準が設けられました。(断熱性能は次世代省エネ基準と同じ)その後2015年に省エネ法の一部であった住宅の省エネ関連法が独立した法律として、「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(以下:建築物省エネ法)」が制定され、「平成28年省エネルギー基準」(以下:省エネ基準)が制定され、現在に至ります。なお、この平成28年基準の断熱性能は次世代省エネ基準と同じ内容です。つまり20年前の古い基準のままであり、地球温暖化による気候変動を食い止めようとする流れができる前の、国際的にみても著しく低い、化石のような省エネ性能となっています。
国交省の試算例を検証してみる
さて、では、義務化がなされると住宅の住まい手にはどのような影響が出るのか?そもそも、それぞれの省エネ基準はどんなレベル感なのか?本当に投資回収に35年もかかるのか?
まずは審議会で基準とされた平成4年基準から平成28年基準へのグレードアップの想定内容はこちら。
断熱仕様が記載されている部分を拡大してみます。
これそのまんま書いてある通りに建研のWebプログラムで計算してみると、資料に書いてある通りになりませんでした。
あれ?もしかして・・・と考え外皮計算をせず、Ua基準値であるH4=1.54、H28=0.87に変更してみたところ、差額2.5万円とある審議会資料と一致しました。
おそらくこの資料を作った方は、基準Ua値をザックリ入れて計算している可能性があり、ちゃんと外皮計算をしていないのかもしれません。基礎コンクリ部分の断熱の仕様や対象とした図面などの記載ないので、断言はできませんが。
また、追加コストが戸当たり87万円の根拠は、資料のどこにも記載がないので、検証のしようがありません。そこで、この87万円はどこから来ているのか、どこかに記載がないか資料をすべて読み込んでみたところ、「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について (第二次報告案) 」のP6の注意書き14に「住宅・建築物のエネルギー消費性能の実態等に関する研究会(座長:坂本雄三 東京大学名誉教授)とりまと め(2018 年 3 月公表)参考資料より引用」とありました。
引用元の「住宅・建築物のエネルギー消費性能の実態等に関する研究会」の資料をすべて確認したところ、第5回(平成30年2月22日開催)の「資料3-2:住宅の省エネ性能の実態等に関する 追加分析」のP9として本資料が登場していたたことが確認できました。(が、コスト試算の根拠は同じく全く示されていません。)
念のため、議事概要を掘り下げてみたところ「住宅・建築物のエネルギー消費性能の実態等に関する研究会(第5回) 議事概要」に事務局より説明とありましたので、国土交通省の事務局にて作成された資料であることまではわかりました。
国交省事務局にはどのような計算をすると戸当たり87万円となるのか、第三者でも検証可能なエビデンスを明示してもらいたいです。感覚的には高すぎる印象です。
それぞれの省エネ基準のレベル感は?(ぶっちゃけ金額換算すると?)
ということで、根拠データの不足がちな審議会資料ではちゃんと検証できませんでした。そこで公平を帰するために、今度は正確に情報が手元にある省エネ基準の基となっている温暖地用モデルプラン120.08m2、建築研究所のWebプログラムにて、「平成25年省エネルギー基準に準拠した算定・判断の方法及び解説(住宅)(以下:緑本」P612に記載のある断熱仕様で計算してみます。
また、コスト計算も公平を帰するために、積算資料2018年度版(住宅建築編)から標準的な一般ユーザーの購入価格を基にして計算してみます。
コスト概算の詳細はこちらにまとめました → 費用対効果
昭和55年基準~平成28年基準、そして誘導基準であるZEH外皮基準まで合わせて費用対効果の計算してみました。それがこちら。
細かいので、ポイントを要約。平成4年基準をベースに差を数値化してみました。赤字のマイナスは損失額、もしくは削減量になります。
昭和55年基準はどうか?
平成4年を基準としてみた場合、昭和55年基準に断熱性能をダウングレードしてしまうと、コストダウンできるのが約14,900円、住宅ローンで借りた場合の年間支払いは540円下がります。一方で断熱性能を落とした分、空調コストは年間5,098円増加してしまいます。つまり、差し引き可処分所得が年間4,559円減少してしまうことになります。
現段階で昭和55年基準で家を建てると2.8年以上住むと損します。断熱を平成4年基準から昭和55年基準にダウングレードする経済的なメリットは完全にありませんので、新築時に昭和55年基準で家を建てることは考えられません。
平成4年基準はどうなのか?
これは基準としたの今回の比較では差額が発生しません。また、国土交通省が社会資本整備審議会にて明示した基準も平成4年基準でした。ただし、この平成4年基準は少々問題があります。
先ほどから連発で指摘している審議会資料には、小規模住宅(120m2の戸建住宅)の試算根拠として外壁にGW10K・35㎜と明記されています。ところがGW10Kには、35㎜という厚みの製品は私の知る限りは市場に存在しません。(製品化されているGW10Kは最低50㎜スタート)つまり、今回私の計算でも基準値となっているGW10K37㎜(緑本P612掲載)や、審議会で明示されたGW10K35㎜という製品は、古い基準値に無理やり合わせた数値であり、現実的には薄すぎるため現段階では市販されていません。最低でもGW10K50㎜からしか断熱材として市販されていないのが現実です。(特注してコストをかけて断熱を薄くするのはあり得ない)
次に、基準としてはアルミサッシ単板ガラスがベースとなっていますが、板ガラス協会の発表資料によれば、直近平成29年の戸建て住宅におけるペアガラス普及率は97.2%です。今時どんなに安普請の建売住宅でもペアガラスになっています。安普請アパートだって81.3%がペアガラスです。
審議会のコストアップに消費者がついてこないという前提として、ほぼ市場に存在しない2.8%のアルミ単板のサッシを持ち出すというのは、どう考えても正しい資料とは到底思えません。(ほとんどが沖縄と推測できます。)つまり、外壁のGW35㎜でアルミサッシ単板ガラスの住宅は、理論上可能だが「現実的には存在しえない架空スペックの住宅」です。
審議会の結論に重大な影響を与えている本資料が正当なものと言えない状況なので、あやまった判断をしないためにも、正しい資料に訂正してもう一度審議会を開催しなおすことが必要ではないかと思います。(パリ協定を踏まえた気候変動対策に多大な影響を与える恐れがあり、さらなる省エネの積み増しが必要な現状で、家庭部門の省エネの柱である住宅の断熱基準の義務化を決める重要な会議で、義務化の障害の最大要因として提示されている根拠資料の住宅はそもそも存在しないなんて、あまりにも雑すぎるのではないか。)
この点に関しては昨年末に国会(経済産業委員会)でも田嶋要先生によって質疑がなされており、返答した国土交通省からもシングルガラスは現実的な仕様ではなかったとの認識がなされていました。
田嶋要(無所属の会)の質疑をご覧ください。
では、本当は平成28年基準に満たない住宅ってどんな感じなのか?
市場に一般的に流通しているGW10K断熱材の最低厚は50㎜からです。ということで、床・外壁・天井にGW10K50mm、アルミサッシ複層ガラス(空気厚6mm)で計算してみたのが、上から3つ目の「GW50mm+アルミ複層」です。
Ua=1.17W/m2Kで、平成4年基準と比較すると、追加コストは109,500円(住宅ローン支払いは3,966円増加しますが、年間の光熱費は10,932円削減できるため、差し引き可処分所得が年間6,966円増えます。(追加投資109,500円は10年で回収できます。)
こちらも昭和55年基準と同じく明らかにGW50mmにしてペアガラスにしたほうが経済メリットがあるので、ほとんど暖房の不要な沖縄などの一部の地域を除いてあえて単板ガラスで家を建てる人も事業者もいないのです。
義務化予定だった平成28年基準はどうか?
本題の平成28年基準はどうなのか、審議会資料では平成4年基準からコストアップは約87万円で、年間2.5万円光熱費が削減できるので、投資回収に35年かかる。丸々住宅ローンを組んだ場合は毎年6,046円可処分所得が減ってしまう、だから義務化すると住宅購入者の負担になるから義務化は白紙にしたほうがいい。という審議会の結論は正しいのか?
結論から言えば、どのような単価で購入すれば追加コストが87万円になるのか?再現できませんでした。積算資料には、GW10K35㎜の値段は存在しません(そもそも売ってませんので)なので、記載にあるGW10K100㎜の価格450円を基に厚み案分で試算してみました。(断熱材は断熱性能で値段がついているので、基本的に同じ断熱材なら断熱性能と価格は比例して変動します。GW10K50㎜はGW10K100㎜の概ね半値ぐらいの価格設定になっていますので、GW10K35mmは市場で売ってませんが仮に製品化されているとすれば、100㎜の35%前後の価格になると考えられます。)
同じく、アルミサッシ単板ガラスの住宅用サッシも、積算資料では価格表示はペアガラスからスタートです。(市場にほぼ存在しないので、価格調査ができないのでしょう。)そこで、三協立山アルミのマディオS(アルミサッシ単板ガラス製品)とマディオP(アルミサッシペアガラス製品)との定価価格比較をしてみました。マディオSとマディオPの価格の違いはガラス代だけ(当たり前ですが・・・)なので、本図面にて積算してみたところ、サッシ本体の価格差は定価ベースで約20%程となりました。したがって本計算では、積算資料P346に掲載のあるアルミサッシ複層ガラスの調査価格を基にアルミサッシ単板ガラスは本体価格20%低い価格で評価しました。
その結果、平成4年基準から平成28年基準へのアップグレードの標準的な追加コストは374,600円、光熱費の削減価格は22,706円。同じく住宅ローンを組んだ場合、22,494円-13,489円=9,005円可処分所得が増加します。(投資回収16.7年)
これのどこが消費者の負担なのでしょうか?むしろ、基準を義務化せず、誤って平成4年基準で住宅を建ててしまうと毎年9千円損してしまうことになります。
審議会の資料の87万円の追加コストの明確な根拠資料を次回の審議会では、ぜひ国土交通省には示してほしいと思います。(ソースが不明で検証不可能な資料で議論が進められるのは問題があるため)
義務化見送りの場合の住宅投資への影響
仮に義務化見送りとなった場合、住宅投資額への影響はいかほどになるでしょうか?
審議会資料から「各規模ごとの全体エネルギー消費量」「住宅=344MJ/m2で計算」「m2当りの追加的コスト」から年間の住宅投資減少額を試算してみます。
結果、平成28年基準の省エネ適合率が70%の場合、年間の住宅投資減は1,342億円となりました。(国交省の示す追加的コストは本来の倍額ほどで試算されているので、実際には半分の650億前後の投資機会損失となると思われます。)
なお、国交省では追加的コストが原因で着工件数が減るのではないかという心配をしているようですが、前項で試算したように、追加的コストを住宅ローンで組んだとしても、増える住宅ローン支払いよりも、年間の光熱費削減額のほうが大きくなるため、これが原因で住宅投資を抑制するということは起きないと考えられます。(ただし、将来の光熱費削減額や家が快適になるなどのメリットを全く考慮・説明せずに、追加コストというデメリットだけが発生するというあり得ない説明をする場合は影響はゼロではないかもしれませんが・・・)
3.「省エネ基準などに習熟していない事業者が相当程度いる」
この点はどうなのか?国土交通省の補足資料によると、「一次エネルギー消費量及び外皮性能の計算について、従業員規模が小さい事業者ほど「計算できない」割合が高くなる傾向。」とあります。つまり、計算できない建築士が約半分弱いて、中小企業ほどその割合が高いので義務化すると業務に支障が出ると考えているわけです。
そして国土交通省の予想では、建売住宅はほぼ省エネ基準を満たせているが、日本全体の約6割のおよそ25万戸前後を建設している年間4頭以下の小規模工務店は約4割が省エネ基準を満たす施工技術力もないと考えています。
その根拠として全国の中小工務店約186社から業界団体を通じてヒアリングを行った結果、27%がコスト負担が顧客の重荷となるとの意見を出しています。(確かに彼らは省エネ計算も断熱強化による光熱費試算はおろか、実際に建設した住宅のお施主様にその後どのように住んでいるのかなどのサポートすらしていないのでしょう。だから自分他のやっている省エネ基準未達住宅が施主の不満足や、可処分所得を減らしていることすら気が付かない。今時このような不勉強で不誠実な工務店が27%も存在するとは思えないので、おそらく質問の仕方で否定的な意見を意図的に集約したのではないか?)
次に、伝統的な工法は省エネ基準に適合が困難、沖縄などの風通しの良い住宅、吹き抜けがある空間や1階に開放性のある駐車場などがある外気に接する面積の大きな住宅などは適合が困難であるなどが記されています。
まず、沖縄は暖房がほとんど不要なので、上記の意見は十分理解できます。なので、この答えは沖縄だけ8地域と分けているのだから、8地域の省エネ基準を適当なものに見直せばよい。又は、沖縄だけは義務化を免除するかのどちらかです。だから全体で見送るというのであれば、省エネ地域を分けている意味がありません。
伝統建築や1階を駐車場にする大きな家などは、どちらも超がつくほどレアな新築住宅につき、これを理由に義務化を見送るというのであればすべての規制は不可能です。因みに、伝統建築を建てている工務店が全国に何社いて、年間棟数は何棟あるのでしょうか?(既存の伝統建築は多数あり、改修ニーズは多くあることは理解できる)同じく、1階大断面で駐車場にするような家は毎年何件建設されているのでしょうか?48件の意見のうち沖縄の15件全員が反対意見を述べているとしても、残り33件(18%)もそのような特殊な建築をこなす小規模工務店がいるとも到底考えられません。
大変厳しい言い方をすると、結論ありきで意見を出す工務店を意図的に集めている可能性を排除できません。意見を聞くサンプリング方式を明確にしないと、こういったアンケートは恣意的になるリスクが高いので、これが工務店の総意という姿勢には疑問符が付きます。
4.「申請者、審査者ともに必要な体制が整わない」
この意見は審査側の業務負担が増えることで審査期間が伸びる可能性があるから困る。また、作り手も書類整理がめんどくさいから、仕事を増やさないでほしいと意見しているわけです。国土交通省としては、2005年に発覚した構造計算書偽装問題(姉歯建築士による耐震偽装事件)を受けて、翌年準備不足のまま改正した、改正建築基準法による官製不況のトラウマが裏にあることは容易に想像できます。
しかし、本件は2006年の改正建築基準法と同一視は全くできません。本件は姉歯事件を受けて、準備期間1年未満の2006年とは異なり、義務化の方針は2012年から明確に打ち出されており、準備期間がなんと8年間もありました。2020年の義務化に向けて、政策誘導期間が8年間もあったはずなのに、義務化を想定して審査側の業務負担対策を十分に行ってこなかったのは、国土交通省の不作為が原因と考えて差し支えないのではないでしょう。(トップの決断したKPI目標を不作為で未達なんて、民間企業なら関係した担当者は厳しい処分がなされるレベルの失態では?)
今回の省エネ基準適合義務化を事実上撤回する場合、影響の及ぶ範囲が2006年住宅着工減の比ではないため(国際条約の反故や住宅購入者の可処分所得の減少等)、今回の義務化白紙の方針は、2006年以上の汚点となる判断ではないかと個人的には思います。
5.「住まい方でエネルギー消費量は変わるから」
ごもっともな意見ですが、だからこそ最低基準の義務化をすべきと考えます。
住宅のエネルギー消費量は住まい方に影響を受けます。だからこそ、その住まい方を制限するような考え方は確実に間違っています。例えば、住宅の省エネ性能が低いと、冷え性や寒がりのご家族を抱える住宅のエネルギー消費量は大きく増大してしまいます。また、暖房する部屋の数や大きさ、設定温度によって空調エネルギーは大きく変化します。
国交省の試算の前提は「間欠空調」といって家全体を暖冷房する約1/3程度のエネルギー消費量を前提としています。(人のいるリビングなどの約1/3の空調室と、外出時や廊下などの2/3の非空調室)そのため、住宅の断熱性能が十分でないと、空調室と非空調室の温度差が大きくなり、ヒートショックなどの様々な健康被害を誘発するリスクが高まります。住まい方でエネルギー消費量が変わるからこそ、最低基準としてどのような住まい方で最低限度の温熱環境を享受できるように配慮すべきと考えます。
また、変化を嫌う事業者の意見よりも、多大な影響を受ける消費者である建築主のニーズを第一に考えるべきと考えます。今回の審議会資料で「唯一の住まい手であるユーザーの意見」がこれです。
住宅購入予定者の約95%が省エネ基準適合に前向きなのです。
私の知る限り、一生に一度の大きな買い物である住宅購入において、わざわざ自分の可処分所得を減らしてまで、断熱性能をダウングレードして暑くて寒い生活をしたいと考える方にお会いしたことがありません。
ただし、アンケートにもある約3割の方は「自分は素人なのでどのぐらいが良いのかよくわからないので、プロである建築士や工務店に提案してほしいと」考えています。
消費者である施主の95%が求めている省エネ性能ニーズを「めんどくさいから」と拒否する工務店や建築士に配慮する必要は、絶対にないと考えます。むしろ消費者保護の観点から、変化を嫌う彼らに消費者のニーズに対応させるためにも義務化はしなくてはならないのではないでしょうか。怠慢な少数派の声の大きいだけの事業者の意見ばかり聞くのではなく、消費者のニーズに寄り添っていくのが、今の日本行政に最も必要な姿勢なのではないかと思います。
6.「デザインに制限かかかると一部のデザイン建築家がやりにくい」
この建築士の声には大きく反対意見を述べたいと思います。
「②個人の住まい方に依存し画一的規制に馴染まない」との意見が約7割」
突っ込みどころ満載な意見ですが、住まい方に依存するのは断熱性能が低いからなんですけど・・・。
当然暑がりか寒がりかによって設定温度が異なりますし、間取りに応じて空調エネルギーは変動します。その振れ幅は断熱性能が低いほどに大きくなります。言い方を変えると、断熱性能が高い住宅の場合は、住まい方の影響による振れ幅が性能が上がるほどに小さくなります。(熱損失が減るほどに室内の居室間温度差や必要な空調エネルギーが減っていくから。)一定の省エネ活動を全体的に行う必要がある場合は、断熱性能を上げれば冬の暖房エネルギーと猛暑時の冷房エネルギーの振れ幅を小さくしていく必要があるわけです。
だからこそ、費用対効果の合う範囲で一定の省エネ性能を義務付ける政策は世界的に有効でほとんどの国で採用されているのですから。これをしないで省エネ量を稼ごうとすると、逆に住まい方の指導や規制を行わなければならなくなるのです。
暑いのに我慢して冷房設定温度を上げさせたり、暑いんだからネクタイ禁止にしたり、冬に暖房設定温度を制限させて厚着させたりと生活スタイルにいちゃもんをつけなくてはならなくなります。(環境省がやってますね。世界でも珍しい、本来必要な産業界の省エネ努力やイノベーションを抑制し、個人の自由を集団意識で制限しようとする、悪質なキャンペーンというといいすぎでしょうか?)
「⑤建設コスト増について建築主の理解が得られない」との意見が約6割。
はい、それをするのがあなたがたのプロとしての仕事です!!建築士の資格を持たない工務店でも61%もこんなこと言う人いないと思いますよ。ちゃんと勉強すれば必ずできます。建築の専門家としてのプライドはないんですか?厳しいですが、これは怠慢以外の何物でもありません。
日本において他の先進国と比較して建築士のかかわる住宅比率が著しく低い理由は、厳しい言い方になりますが、世の中のニーズ(施主のニーズ、気候変動などの待ったなしの国際課題)すらキャッチアップ出来ていないから仕事が取れないのではないでしょうか。
デザインの多様性が損なわれる」との意見が約4割。
これ、本気で言ってます?
土地の特性や周辺環境、施主の個性や懐具合などなどあらゆる課題を、かみ砕いて絶妙にバランスをとり、建築として表現(問題解決)するのが建築家の最大の存在価値では?
気候変動への対策という人類共通の課題に、建築を通してスバ抜けたバランス能力を持って答えをだす。これこそレベルの高い建築家でないとまとめられない難テーマなわけで、大多数の建築家は真剣にこの問題と向き合ってますが・・・。
デザインと性能、そしてコストバランスを上手にまとめるのはとても難しいからこそ、物事を概念化して建築物に昇華させる建築家のずば抜けたバランス感覚が必要なのです。挑戦する前から自分の能力の限界を決めてしまって、変化することを恐れて思考停止する・・・正直なところ、バランスをとる能力の極めて高い建築家の熟考した意見とは、とても思えません。
絶対にまじめに考えて答えた意見ではないことが、回答を見る限りありありとみて取れます。
誰だか知りませんが、あなたの適当に答えた意見で、日本中のこれから住宅を取得する一般の方々に多大な影響を与えてしまいそうになっていることに気が付いてほしいです・・・ホントに。
まとめ
まとめると、義務化を見送ると毎年650億~1,300億円規模の住宅投資減が発生する。平成28年基準にしたほうが、追加コストよりも光熱費削減によるリターンが大きくなるため、義務化を見送って平成4年基準(正確にはGW50㎜アルミ複層)を容認したほうが、住宅購入者の可処分所得を減らし消費意欲減退、長期的な景気の冷え込みやなどの経済的損失が広がる。
景気に配慮したいのであれば、可処分所得を増やすほう、つまり予定通り平成28年基準の義務化を行うべきである。可処分所得を減らし、景気に悪影響をもたらす省エネ基準の義務化見送り判断は、景気配慮として明確に誤りであり、審議会に提出された資料のコスト計算が間違っているため、審議会資料の修正および議論のやり直しを行うひつようがあるのではないでしょうか。
また、住宅を建設する事業者側の意見(主に20年近く前に制定された基準すらキャッチアップできていない大変不勉強で怠慢な少数派の事業者)ばかり集めるのではなく、気候変動などの国際問題にまじめに取り組んでいる大多数派の事業者や、本件で最も影響が出る住まい手である消費者の声を真剣に集めて取り込んで、義務化の事実上の撤回を撤回してほしいと切に願います。
今回ほとんど盛り込まれていない、まじめな事業者の意見、住まい手である消費者の意見を出せる唯一最後の機会が下記のパブリックコメントです。
ぜひ、皆さんの貴重な声を行政に届けてあげてください。
どうぞよろしくお願いいたします!!
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=155180734&Mode=0