なぜ、フライブルク市ヴォーバン地区に世界中から視察が集まるのか?
〜ジャーナリスト・環境コンサルタント村上敦氏をインタビューして〜
ドイツの南西部に位置し、世界的に有名な環境先進都市であるフライブルク市。今回は、その市内にあり、 世界中から訪れる視察団がみんな口を揃えて「住みたい!」と言ってしまう街、ヴォーバン地区を視察してまいりました。お話を伺ったのは、ドイツ在住のジャーナリスト・環境コンサルタントの村上敦さんです。村上さんは、様々なメディアにおいてドイツの環境政策、都市計画制度、エネルギー政策などの情報を発信しており、日本でも将来性あるまちづくりを展開することを目標に活動していらっしゃいます。ウェルネストホーム創業の大きなきっかけ、原点となる知識をもたらしてくださった方でもあります。
(当ホームページにて公開している『日本における電力需給実績の見える化』でもご協力をいただいています。)
家づくり・街づくりに携わるプロフェッショナルに密着した番組「the Meister〜受け継がれる意志〜」にて村上さんが取り上げられています。コチラの動画も合わせてご覧ください。
contents
世界中から視察が訪れる街「フライブルク ヴォーバン地区」
ーヴォーバン地区は、フライブルク市の中心街から南へ3kmほど離れたところにある人口約5,500人の住宅エリアですよね。なぜ、このヴォーバンが優れたまちづくりの地と呼ばれ、世界中の人が視察に訪れるのでしょうか?
村上敦氏 「まず、特徴的なのはこの地区の歴史です。ヴォーバン地区は1990年代初頭までNATOフランス軍駐屯地として使用されていました。1992年にドイツ連邦に返還され、その後軍宿舎だった建物を用途変更し、シェアハウスなど住宅用地として利用する人が増えはじめます。そうした流れの中で、『この地区を、これまでにないまったく新しいタイプの住宅地にしよう』という気運が高まっていきました。通常は行政が作成した都市計画によって開発が進むのですが、ヴォーバンでは、この地区に住みはじめていた住民の活発な意見が取り入れられています。環境や住宅についての意見・アイデアを集約するNPO団体が発足され、この団体が市民と行政の仲介となって、審議に審議を重ねて醸成しました。この都市計画は、かなり膨大な手間をかけた過程を経て、非常にロジカルなものとして出来上がりました。」
ー地域全体が一丸となって作り上げたロジカルな都市計画によって、具体的には一体どのような工夫が実施されていたのですか?
ヴォーバンの住宅には駐車場がない
「住宅街を見渡して気づくことはありませんか?」
ー路面電車が走っていることや、緑が多いことでしょうか
「そうですね。それも大きな特徴です。逆に他の住宅街にはあるのに、ここにはないものに気づきませんか?」
ーあ、自動車が止まっていない!
「そうです。ヴォーバン地区の大部分の住宅街(宅地)には駐車場がないのです。
そのため、住宅街への車の進入は基本的にありません。通り抜け交通ができないようするため、住宅エリアの道路は、マス目状ではなく主要道路に対してコの字型になっています。宅配などのためやむを得ず入ってくる必要のある車両はありますが、最徐行・歩行者最優先が義務付けられているんです」
ーだから、子供たちは家の前の道路を使ってのびのびと遊ぶことができるんですね。この看板にも、子どもたちが遊ぶ様子が描かれていますね。
「周辺の道が『遊びの道路』となったことにより、子供をはじめ住人同士が交流を結ぶことができる社会福祉的な機能を持つ空間ができました。実は、子供の発育にとって良質な遊び場は、1番が自宅の敷地内、2番は自宅前の道路である、という研究結果も出ているのです。」
ー住宅付近に車を置かないメリットはわかりました。しかし、自動車を所有している人はどうしているのですか?まさか車を持ってはいけないとか?
「フライブルク市を含むバーデン・ヴュルテムベルク州での法律では、『住居を建設する際、1世帯につき最低1台分の駐車場を、敷地内もしくは自治体が許可した場合は自治体所有の土地に設けること』が義務付けられています。しかし、限られた土地の中で個別に駐車場を持つとなると不具合が出てくるのは明白でした。一戸当たりの敷地の用途がかなり限定されてしまいますし、住宅地内に駐車場を作ることによって車の進入が頻繁になれば、先ほど話していたような『遊びの道路』の確保も難しくなります。住民と行政がたくさんの意見を交わし、解決策が模索されました。そこで考えられたのが、『住民が所持している車は幹線道路沿いに建設する2箇所の立体駐車場のどちらかに駐車する』というものです。意見が割れたため決定に至るまでに何度も話し合われ、結果的に市議会にて1票差で現行のものに決まったという話もあります。最終的には、ヴォーバン地区全体の約4分の3をカーポートフリー住宅地区(住宅地・宅地の居住区内に駐車場を作ることが禁止とされる地区のこと)に制定し、住宅地の端に3箇所の立体駐車場をつくるという手段をとることが決定しました(現在は2箇所で足りているため、残りの1箇所は予定地のままとなっています)。自家用車を所持している住民は、そこに駐車スペースの権利を購入するルールとなりました。さらに、車を持たない住民による組合も作られ、その組合と市は独自の契約を結び、決まった手続きを踏めば自家用車を所持しない人々は駐車場購入を免れることができるようにもなったのです。」
ー車の利用者にとっては、家から離れたところに車が置いてあるのは少し面倒ではありませんか?
「自家用車の所持者にとってはやや不便かもしれませんが、その代わり路面電車やバスなど公共交通機関の利便性はかなり高く整備されています。住民が高頻度で利用することで採算がとれるようになるので、電車の運行間隔を短くすることができ、結局ほとんど車を使わなくても不便ではなくなっていくという現象がおきています。この規模の住宅街に路面電車が入ってくるのは世界的に見ても異例なことです。路面電車以外には、自転車の専用道路が整備されているので、自転車の利用者数も増加しています。車を所有しない選択をした人たちが車を必要とする際には、カー・シェアリングを利用するケースも増えています。シェアリングエコノミーは、思想・利便性、両方の観点で活発に利用されて普及しています。」
ー確かに、先ほどから路面電車が頻繁に通っていますね
「主要道路であるヴォーバン通り沿いには3か所の路面電車の停留所があって、それぞれの住宅からは立体駐車場よりもこの停留所のほうが、アクセスがよく便利です。運行間隔も日中で約7分に1本程度なので、ストレスなく目的地に出発することができます。また、金曜日や土曜日など休日前日は深夜を通しての運行もあるため、日本のように終電を逃して帰れなくなる人や、車の飲酒運転なども防止にもつながります。
これだけ頻繁に運行されている路面電車ですから、線路沿いの騒音防止のため、線路の軌道が緑化され、芝生が植えられています。アスファルト部分を走行しているときと比べると、かなり音が抑えられていることが分かります。加えて、自動車が通る幹線道路沿いには高い容積率の商業施設を防音壁として配置するなど、音の計画(アセスメント)もされていることが快適な住宅地をつくる上で重要な視点になっています。」
ー本当に、走行音がとても静かですね。
これなら家のすぐそばを夜間運行していてもまったく問題ありませんね。
「この街には、快適な生活環境をつくるための工夫が随所に施されています。例えば、さきほど話にあがった緑(植物)の多さ。これもヴォーバン地区の特徴です。次は、自然保護やその活用についてご紹介しましょう。」
自然が豊かな緑の街ヴォーバン
ー街を少し見回しただけでたくさんの草木があるのが分かります。枝ぶりの立派な木が立ちならび、虫や小鳥もいて、生活の風景に溶け込んでいる様子が見られますね。これらがどんな役割を果たしているのでしょうか?
「都市計画が進む中で、住宅や立体駐車場の建設が実施される際、既存の植生や大木の保護は重要視された項目の一つです。このプランの図面を見ると、保護すべき樹木(特に、古くからある大きな木)が全て記されていて、街の一部として残すことが決められていました。大木を残したことによって、夏は涼しい木陰がつくられ、蒸散作用による空気の冷却、そして広葉樹の葉は空気清浄の役割も担ってくれています。このヴォーバン地区で採用された、ソーシャル・エコロジーコンセプト10箇条(※)の中でも、より良い住環境の形成のためには自然保護が大切であると唱えられています。良好な自然環境とは、ひとつの環境の中に多様な要素が共存できていることを意味します。ただし一口に『多様』といっても、必ずその土地固有の種類のものでなければならなく、気候に合わない植物をも闇雲に植えたりするようなことはしません。では、どのように多様な要素を取り込むのかというと、植生の遷移、つまり開かれた野原から森が生成されていく過程がヒントになります。」
ーただ植物をたくさん植えれば良いというわけではないのですね。植生の遷移と言われても、あまりピンときません
「では順を追って考えていきましょう。まず、ここを更地にしたとします。放置していたらどうなるでしょうか?」
ー雑草が生えてきます
「そうです。雑草が生えてきますよね。通常はまず『単年草』、すなわち冬を越さずに種を作り、1年以内に枯れてしまう植物が生えます。そうしているうち、次に生えてくるのが『多年草』と呼ばれる、根っこで冬を越して数年生きる植物です。それが時間の経過とともにより大きな、そして多種の多年草が運ばれ、『藪』になっていきます。次は陽樹などの樹木が生えてきて『雑木林』になるでしょう。続いて、陰樹である針葉樹や広葉樹などの大木が成長してゆきます。こうして200~400年程度かけると、その土地に適合した最終体系(たとえばこの地域ではブナの森)の『極相』が現れ、安定化します。山火事や風害、雪害などが発生しない限り、この場所の植生は変化しません。」
ーこのことが、ヴォーバン地区の自然環境づくりとどうつながるのでしょうか?
「この植生の遷移の過程では、常に種の異なる植物が生育していきます。同じ土壌、日射量、温度、雨量の同じ場所なのにもかかわらず!つまり、その土地に適している植生だけを選択してヴォ―バン地区に植え込んだとしても、更地から極相の森ができるまでに発生する多様な植物の種類を時間軸で切り取ることで、多様な植生空間を提供することができるのです。昆虫や小鳥などは、それぞれの生育条件を植生に適合させていますから、それらの種の多様性ももちろん実現されます。こうすることで、地元特有の自然条件に合致した多くの自然資源を街の中に取り込むことができ、ビオトープ(野生動植物の安定した生息地)が完成します。ですから、育てるのに時間がかかり人工的に用意することが困難な大木の保護を都市計画において優先させることは常識なんです。」
ー土地の特性を理解し、可能な限り自然に近い形で植物を共生させることで、細かな手入れをする必要もなく生き生きと育ち、人間にとって癒しをもたらしてくれる存在となるわけですね。そう言えば、小鳥がさえずっていますね。住宅街の家の前なのに、野鳥がさえずっているなんて感動ですね。東京はカラスくらいしか…
「日本の街路樹は生態系を無視して、地域の植生とは関係なくソメイヨシノの桜並木にしてみたり、落ち葉を問題として樹冠をほとんど取り去ってしまったり、そもそも公共における緑についての考え方が違いますからね…」
ー田舎に行けば緑はありますが、都市部では諦めなければいけないものかと思っていました。しかしこの景観を見て、希望が湧いてきました。
「日本でももちろん実現可能ですし、一昔からの緑のインフラを残している地域では、そうした当時の方々の思想がその中に見られると思います。
加えて、この自然環境を維持するためには、地下水位を一定に保つことも重要です。地下水位が下がると、樹齢の高い木などにとっては致命的となり、周辺の植生全体に影響が出てしまいます。建物の屋上の緑化や庭部分で雨水を地下に浸透させる役割をもたせながら、これと連動した水路および雨水浸透マスの設置によって対策が取られています。このマスに貯めた雨水をゆっくりと時間をかけて地下に浸透させることにより、地下水位の保持や下流域での洪水の危険性を低下させることができます。」
※ 【ヴォーバン住宅地で採用されたソーシャル・エコロジーコンセプトの10か条】
- 1.適度な人口密度による住宅地の実現
- 2.既存の樹木や植生、地形、既存建物を最大限生かす
- 3.中心部に商業施設と雇用を呼び込み、住宅地のアイデンティティ(独自性)の確保
- 4.カーフリー(カーポートフリー)での住宅地設計
- 5.近自然工法による住宅地内の緑地(公園など)の確保
- 6.屋上緑化などの対策を盛り込んだ雨水コンセプト
- 7.コンポスト(堆肥)を主軸とした住宅地内での廃棄物処理
- 8.省エネ建築様式(高断熱・高気密)による住居設置の義務化
- 9.地域暖房の導入とコージェネレーションでの発熱・発電
- 10.コーポラティブを主体とした集合住宅の実現
引用:https://www.club-vauban.net/クラブヴォーバンの考える家-まちづくり/
コーポラティブハウスでつくるヴォーバンの住宅と公園
ー住宅の区画ごとの間にある公園も、緑があふれていて素敵ですね。
「地区内には、ヴォーバン通りの左右合わせて5か所の公園が作られています。『緑の帯』と呼ばれるこれらの公園のコンセプトは、住民参加のワークショップで参加者が実際に手を動かしながらコミュニケーションをとってアイデアを出し合い、設計を行ったものです。その結果様々なタイプの公園が完成し、どれも住人の憩いの場となっています。ピザ釜が設置されているユニークな公園もあります。」
ー近所の大人や子供が気軽に集うことのできる場があると、街自体の雰囲気も明るくなりますね。
「ヴォーバンに作られた集合住宅のほとんどがコーポラティブハウスです。コーポラティブハウスとは、不動産業者やデベロッパーの一存で建設するのではなく、建てる前に家計の状況や趣味趣向の近い人同士が集まってグループをつくり、共同で土地を購入し、建設の計画段階から完成後の維持管理費などまで話し合いを重ねてつくられた住居、およびそこで暮らす形のことをいいます。そのような性質上、住み始めてからもコミュニティ内の結びつきは強く、絶えず交流が続いていくのです。住居の形式も、壁を連続させるタイプの長屋式のものが多いのですが、庭の仕切りには柵をつくらず、植物を使ってプライベートな視界を保護することで、圧迫感を緩和させています。近所で助け合いながら育児ができるという魅力もあり、小さなお子さんのいる家庭にはとくに人気がありますよ。」
ー住民間の関係が充実することで生活環境に対する意識の高さが生まれ、より良いまちづくりの実現につながっているのですね。ご近所同士のコミュニケーションがとれていると防犯対策にもなりますし、地域で子供を育てていく風潮があれば、近年日本で話題になっている“ワンオペ育児”や“待機児童”の問題も解決できそうですね。
「そうですね。豊かな街が豊かな暮らしを作り、豊かな人を育み、人と人とを結びつけ、さらに豊かな街に育つ。あるべき姿だと思います。」
ーもうヴォーバンに引っ越したくなってきました。でも、これだけ素敵だと手放す人はいないのではないでしょうか
「確かに人気ですし、必要とされる戸数を超えて新築マンションを建てまくるような国ではないので、空きは多くはありません。とは言っても、ヴォーバンで子育てを一段落した家庭などは引っ越していきますから、空きができないわけではないです。せっかく購入した物件を簡単に手放すのはもったいないような気もしますが、ヴォーバンの住宅の資産価値は上昇傾向にあるため、購入時よりも高く売ることができています。なぜ価値が上がっているのかというと、住宅本体が良質であることは勿論、この街のシステムとしての省エネ性能の高さに秘密が隠されています。これから詳しくお話していきます。」
再生可能エネルギーと地域熱による環境先進地区ヴォーバン
「EUでは、『建物のエネルギー性能に関するEU政令』によって、規定の算出方法で建物の燃費を計算し、その燃費を表示することが義務付けられています。この表示のことを、一般に『エネルギーパス』といいます。」
ーちなみに日本ではまだ、建物の燃費表示制度が義務付け(参考:2020年の省エネ義務化問題)されていませんよね。
「そうですね。しかし日本でも、2011年7月に『一般社団法人 日本エネルギーパス協会』という団体が設立されており、建物の燃費計算ツールの開発などを行っています。ご自宅等の燃費について調べたい場合は、認定エネルギー計算士による燃費計算や、エネルギーパスの発行を依頼することができます。具体的な数値で燃費を知ることが、エネルギー消費削減の第一歩につながります。」
ー環境先進都市のモデル地区であるヴォーバンでは、どのようなエネルギー削減の政策をとっているのか気になりますね
「ではまず、省エネの要となる、ヴォーバン地区に建てられている家々のつくりの特徴からお話ししていきます。ヴォーバン地区の住宅の中でも、とりわけ性能の優れているパッシブハウスの構造についてです。パッシブハウスとは、東西南北それぞれの方角から差し込む日差しの特徴を最大限に利用することを考えて建築されている住宅のことです。例えば、キッチンを東側にすることで、朝の光の中で気持ちよく朝食を摂ることができ、西側にリビングや子供部屋を置くことによって、帰宅後の時間をより長く陽の当たる部屋で過ごすことができます。方角ごとの庇の角度、ベランダや窓のつけ方、ブラインドは、計算しつくされた形状となっています。特に窓について言えば、驚異的な断熱性能を持った断熱三重ガラスが使われていて、建物の南側の壁面積の50パーセントはそのガラスで覆われています。また、断熱材をしっかりと組み込むことによって保温・保冷性を高め、前述の自然光から得た熱を無駄にしません。気密性能も大変高いため、換気の機能も重要です。ここでの換気機能は、ただ空気の入れ替えを促すためだけのものではなく、熱交換器を併用させた仕様を用いているので、快適な温度且つ新鮮な空気が循環しています。エアコンや給湯など、熱をつくるために使うエネルギーは最低限に抑えられるのに、夏涼しく冬暖かい。エネルギーを大量に消費しなくとも、快適な生活を実現することができるのです。」
ーウェルネストホームの掲げている『良い家』を具現化したものがまさにこれですね。
「その通りです。今ある一般的な日本の住宅では、エネルギーをあまりにも消費しすぎる上に、長持ちもしません。性能の良い家を建てると、たしかに初期費用は多少高くなります。しかし長期的に考えれば、快適性が高い上に燃費効率が良いので、光熱費を抑えることができる。さらに長持ちして資産価値も落ちないとなれば、結果的に安くつくことになるわけです。」
ーこれは、子供たちの未来を守ることにもつながることです。多くの人に改めて家づくりについて考えてもらいたいポイントですね。
「私たちの役割は、ただドイツの環境政策や高性能住宅についての話をするだけに留まるのではなく、日本の子どもたちの未来のために何を残すべきかを考えてもらうための情報発信をしていくことだと思っています。」
ー全くもって同感です。多くの人にこのヴォーバンに訪れてみてもらいたい。それが難しいとしても、まずこのインタビュー記事をたくさんの人にシェアしてもらえたらと思います。
「ありがとうございます。
せっかくなので、地域熱供給システムについても触れておきたいと思います。ヴォーバン地区では、地区内にある木質バイオマス・コージェネによる地域暖房が採用されています。ここでは、フライブルク市の市有林(黒い森)において木材生産が盛んですが、この木材生産の過程で出てくる、木材として利用できない部分をチップに加工したものが熱のための主な燃料となっています。これに天然ガスによるコージェネ(熱電併給)を加え、熱を作るのと同時に電力も生み出しています。作られた熱を集合住宅や隣り合わせの住宅が共同で熱交換器によって受け取り、各世帯はメーターを通して暖房用の熱と給湯用の温水を得ています。個別の世帯で給湯器を設置するよりも、エネルギー消費は勿論、コストも大きく抑えられます。」
ー各世帯単位だけでなく地域全体で省エネに取り組み、持続可能な社会へと歩んでいるのですね。ヴォーバンの街づくりに対する思想が随所に垣間見えて本当に感動しました。
「そう言っていただけると本当にうれしいです。日本には日本の家づくりの良さ、まちづくりの良さがたくさんあります。しかし、都市計画がなされずに街ができていってしまい、少子高齢化や核家族化が進んでいる。都市部であっても過疎化、スプロール化が進み、豊かとは言い難い生活環境になってしまっています。
日本にも、ヴォーバン地区のような持続可能な住宅街をつくることを目標に情報発信していますので、『私も一緒にやりたい!』という志をお持ちになる方がいらっしゃれば、是非夢をかなえる同志になっていただきたいと思っています。」
今回お話を伺って、日本でもこのような将来性あるまちづくりが行われるべきだと強く感じました。そのためには、まずこの情報をより多くの人に知ってもらうために、私たちも広く発信していきたいと思います。子供たちに残していきたい未来のあるべき姿について、とても重要な勉強になる視察をさせていただきました。
村上さん、本当にどうもありがとうございました。
お読みくださった方にも感謝申し上げます。心に触れる何かがございましたら、是非編集部へご感想をお送りください。村上さんへお伝えさせていただきたいと思います。
(ウェルネストホーム編集部:info@wellnesthome.jp)
参考文献
村上 敦(2007)『フライブルクのまちづくり ソーシャル・エコロジー住宅地ヴォーバン』学芸出版社,255p
村上 敦(2014)『キロワットアワー・イズ・マネー ~エネルギー価値の創造で人口減少を生き抜く~』改訂版,いしずえ新書,254p